臨時教育審議会「審議経過の概要(その4)」の大学問題についての見解


 臨時教育審議会が去る123日に第三次答申の原案資料として発表した「審議経過の概要(その4)」の大学問題の審議内容については,多くの問題点を指摘できるが,とりあえず,以下のとおり見解を表明する.

 

一,高等教育財政

  高等教育財政については,基礎的研究費の比率が少ないことなどの問題点の指摘もみられるが,これまでの文部省の安上がりの高等教育財政に対する批判を欠 き,また肝心の国際的にも最悪というべき高額な学生納付金の軽減方策を明確に打ち出していない.
 「多元的資金導入」と称して,産業界等,外部からの資金導入を重視することは,大学に対する公財政支出を減少させ,教育研究を外部に奉仕,従属させるおそれがある.
 国立大学の財政自主性の強化を口実に,外部資金導入等による自主財源の確保を強調しているが,それは外部への財政的従属を助長し,大学の自主性・自立性 を損なう条件となろう.
 高等教育の機会均等・拡充の目標や計画が不在である.

二,大学の組織と運営

  1971年の中央教育審議会答申の「学長・副学長を中心となる中枢的な管理機関」構想を評価し,随所で「学長のリーダーシップ」を強調しているが,それは,全構成員による大学の自治を形骸化する方策にほかならない.
 同様に「学外有識者の参加を得た諮問の機関」を推奨するが,その中心が産業界の代表となり,その大学介入のルートとなりかねない.
 助手,講師等「若い教員」の任期制導入を検討課題としているが,それは身分・待遇の不安定をもたらし,研究能力・内容の向上を妨げるものである.

三,大学の設置形態

  71年答申の「新しい形態の法人」構想を引用し,「法人化」,「公社化」を検討課題としているが,大学の「自由化」=民営化を基調とした設置形態は,大学を財界に開かれたものとするもので,大学の自治を根幹とし,公費によって運営される国民のための大学の方向と対立するものである.

四,大学のインテリジェント・スクール化

  「土地信託や民間との共同開発」による「複合的なキャンパス・ビル」の提案がみられるが,それは露骨な大学の企業化である.

五,大学の国際化

  大学の真の国際化のためには,例えば,国際人権規約13条の大学教育の無償制(日本政府は留保)を実行するなど,大学教育の国際交流の条件をととのえるべきである.臨教審の教育の「国際化」は,企業利益,国益の国際化の手段となりかねない.秋季入学制が国際化のキイ・ポイントの1つとされているが,教育 改革の基本的課題を回遊した局所的制度いじりは,教育に無用の混乱をもたらすことが懸念される.

 

 1987315

日本科学者会議大学問題委員会