JSA学術情報ニュース

33 2002年3月5日発行

日本科学者会議学術体制部

пF03-3812-1472

(注:このニュースではホームページのことを「HP」と表記しています。)

1.大学改革

どこへゆく教育系  「清算事業団」に現実味

 「これでは、まるで、最初にリストラありきではないか」

 愛知教育大が9月に開いた定例教授会は、いつになく紛糾した。同大の「大学改革推進委員会」が再編・統合を想定したプランを示したからだ。

 プランには、静岡、岐阜、三重の各大学の教育学部を愛教大に統合する「東海教育大学」構想、名古屋大の教育学部に併合される「大名古屋大学」構想など、委員会が検討した6つのシナリオが列挙されていた。出席者を動揺させたのは、その中にあった「清算事業団」の5文字だった。

 愛教大には、本来の教員養成課程のほかに、情報教育や生涯教育など教員養成を目的としない4つの「学芸課程」がある。大学を再編し、教員養成専門の大学として生き残るとすれば、学芸課程を手放すことになる。「清算事業団」はその場合に備え、余剰教員を高校などに非常勤で派遣する組織として、委員会が提案したものだった。

 かつての国鉄民営化での大胆な人員整理をほうふつさせる表現に、出席者から憤りの声が上がった。あまりの反発の強さに、委員会は「清算事業団」の表現を撤回した。ただ、これをきっかけに学内の改革論議が活発になり「ショック療法の意味はあった」と、プランの作成に携わった教授は振り返る。

 国立大には、教員養成のための大学と学部が、全国に48ある。文科省が6月に発表した「大学の構造改革の方針(遠山プラン)」では、これら48の大学や学部について、再編・統合すべしとしていた。少子化で児童や生徒が減るのに伴って、教員の採用数自体が激減している。その一方で、多発するいじめや学級崩壊などの問題に対応できる教員の育成には、小規模の教育学部では限界がある、というのだ。

 11月末には、国立の教員養成大学や学部の将来の在り方を検討してきた文科省の懇談会が、より具体的な再編・統合の方針を打ち出した。全都道府県に1校はある教員養成のための大学と学部を、隣接県同士で統合する。そのうえで、統合してできた大学は教員養成だけに絞り、それ以外の課程は無くすという内容だ。かなりの県から教育学部が消える可能性が強くなってきた。そして、愛教大も教員養成に特化すれば、学芸課程はなくなる。消えたはずの「清算事業団」が現実味を帯び、学芸課程の教授の1人は「すっと首筋が寒くなっていくのを感じた」と話す。

 今月七日、岐阜駅前にあるホテルの会議室で、愛教大と岐阜、三重、静岡の各大学教育学部の幹部ら約40人がテーブルを囲んでいた。教育大学や学部が抱える問題を協議する定例の会議だったが、懇談会報告が出された後だけに、再編・統合問題が話題になった。

 静岡大教育学部の幹部が文科省の教育大学室を訪ねた時のことを打ち明けた。「単独で頑張りたいと申し上げて反応をうかがったら『260という数は微妙ですね』と言われた」。静岡大の教員養成課程は定員260人。その規模で、単独生き残りが微妙だというのである。岐阜大の定員は215人、三重大は100人だ。岐阜大の黒木登志夫学長は「教育学部を残すことは最大の優先課題」、三重大の川口元一教育学部長は「単独での存続を目指している」と言うが、単独で生き残れる確証はない。

 会議は結局、互いの腹のさぐり合いに終わり、4校間の具体的な統合・再編話は出なかった。

「仲人がいなくては、うまくいくわけがない」と、岐阜大の黒木学長は統合の難しさを口にする。リストラ含みだけに、今後も一筋縄ではいきそうにない。  (読売新聞中部版 12月24日付)

 

名大・総長補佐9人 「トップダウン」へ布石

 「総長補佐」の肩書を持つ8人の教授が先月7日、名古屋大事務棟5階の会議室に集められた。

40歳代から50歳代前半の将来の幹部候補ばかりである。8人は総長直属スタッフとして11月1日付で辞令を受け、教養教育のカリキュラムなどを考える教育改革担当や、キャンパス・施設担当など、それぞれ担当が決められていた。世界で20位に入るような大学を目指し、直面する課題について、来年[2002年]3月までに答えを出すのが仕事だ。

 補佐たちとテーブルを囲んだ松尾稔総長は、「責任は全部、わしが取る。しっかり頑張ってほしい」とはっぱをかけた。総長補佐はその後、1人加わって9人になった。松尾総長は「大学も、トップダウンに変わらなければならない。その第一歩だ」と説明する。  (読売新聞中部版 12月20日付)

 

名工大・企業元役員 競争原理導入先取り

 大学が法人化されると、学外の専門家を役員に登用する道も開かれる。その動きを先取りしたのが名古屋工業大だ。柳田博明学長は、民間企業の役員経験者2人を、10月から学長特別補佐に招いた。非常勤だが、毎週開く大学幹部らの運営諮問会議に月2回は出席し、自由に発言してもらっている。就任して1年余り。柳田学長はいま、2人の助言を受けながら、組織を抜本的に変えようとしている。各学科に所属する教員を、学科の枠を外して横断的に再編成するつもりだ。教授のポストが空けば、直属の助教授が昇進するエスカレーター方式ではなく、能力本位で競い合う余地が生まれることになる。

 柳田学長は、各学科や専攻に自ら出向き、教員に直接、改革の必要性を訴えてきたが、ある教員の質問にショックを受けた。「今までは、教授の顔だけ見ていれば生きてこられた。学長の改革が実行されたら、だれの顔を見ればいいのですか」

 閉ざされた研究室にいて、世の中を見ようとしない「大学人」の姿だった。学長特別補佐で、元トヨタ車体専務の神谷忠雄さんは「自分たちの学問が、世の中にどう役に立つのか、自分の頭で考えてこなかったからだ」と、教員の意識を変える必要を説く。 (読売新聞中部版 12月20日付)

 

2.独立行政法人関連

中期計画に「年間1%の事業費効率化、すなわち削減」を盛り込む(先行した独立行政法人における緊急調査結果)

 さる4月1日独立行政法人となった機関の中期計画をHPで調べたところ、経済産業省、文部科学省、農水省関係の主だった独法は、どこも、運営費交付金をあてる事業費の毎年1%効率化をうたっていることが判明した。効率化とは削減の別名である。農水省関係には、人件費を除くというただし書きがあるが,文部科学省・経済産業省関係には,そのただし書きはみられない。関係者の情報によると、この1%条項については、3月になって中期計画への挿入が、主務省庁から事実上強要されたとのことである。自己収入の増加も要求されており、「自己収入の増加に努める。また、自己収入額の取扱においては、各事業年度に計画的な収支計画を作成し、当該収支計画による運営に努める。」との規格化された一文が盛り込まれている。  (独行法反対首都圏ネットワーク事務局2001年5月4日)<首都圏ネットHP=http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/nettop.html

 

国立大法人化、教職員は非公務員で一斉に(文科省会議最終報告案) 

 国立大学法人化の枠組みについて論議していた文部科学省の調査検討会議は21日、すべての国立大学を一斉に法人化することなどを柱とする最終報告案をまとめた。焦点となっていた教職員の身分については、非公務員型とすることで大筋で合意した。学長は学外の識者と法人の役員による「運営協議会」と学内の代表による「評議会」の双方の代表で構成される委員会で選考。各大学で広く行われている教職員による学長選挙については、法制上は位置づけないことにした。

 原案では、昨年9月の中間報告で触れていなかった法人化への移行方法について「すべての大学を同時に移行させる」と明記。これにより、法人化に反対している地方の国立大学も含め、早ければ

2004年度にも一斉に「国立大学法人」となることが固まった。教職員の身分は、(1)現行では学部長以上の管理職になれない外国人を学長などに登用できる(2)人事院の承認なしに営利企業や医療法人などと兼職できる-などと指摘、「非公務員型とすることが適当」だとした。非公務員に移行することで教職員に不利益が出ないよう、退職手当や医療保険・年金などを通算するための法的措置を講じたり、各法人の就業規則で解雇理由を明確にすることも求めた。  (東京新聞2002年2月22日付) <新しい「国立大学法人」像について=http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/010221saisyu.pdf

 

3.大学、教育と文部科学省関係

文部科学省主催シンポジウム「明日をめざす科学技術」で、長尾・京大総長が特別講演

(要旨)科学とは自然に存在する対象の構造や機能を分析的に解明し、そこに存在する内在的な法則性を明らかにすることである。これまでの科学においては・細分化・全体は部分の集合からなる(要素還元論)・ディバイド・アンド・コンカーという方法論が通用する世界が研究対象となっていた。また、・自然は数学によって記述しうる・自然は論理的に証明できる・論理体系は前提をもつ・演繹的方法対機能的方法・仮説検証対法則性の発見-という基本概念に支えられていた。しかし、今や、「全体は部分の集合」というわけにはいかない研究対象に取り組まねばならないようになってきている。つまり、どんどん細かくしていって、そこでの法則性を明らかにし、それを集めて全体像を明確化するという方法論では扱えないような対象が今後ますます出てくるものと考えられる。

 一方、技術の歴史においては、アートの時代があった。これは科学的、論理的に考える以前から存在しており、いわば天才的にある種のものを制作する熟練と伝統の時代であった。科学と技術は久しいこと独立して発展してきたが、ダヴィンチ以降、科学と技術は融合し、アートの時代からテクノロジーの時代へと移り変わっていく。この時代では、科学的の法則を利用して誰もが使える技術をつくっていく。次いで、技術は、テクノロジーの時代を迎える。そこでのプリンシプルは「技術を体系的な学問とし、市場を考えた新しい製品をつくる設計(デザイン)という概念に結びつける」ことであった。こうして、今日、工学(技術)は新たな時代に突入している。その特徴は、科学の法則を網羅的に組み合わせ、あらゆる可能なものをつくりだし、その中から良いものを選択することである。化学、物質材料、薬学の分野ではすでにそうした傾向が強い。

 20世紀までの科学は「対象の分析」であったが、21世紀は「生成」がキーワードとなると考えられる。つまり、科学(分析)から技術(生成)への転換であり、技術による新しい科学分野の開拓が行われ、そして科学的成果から新しい技術へとサイクルが高速化していくと思われる。科学と技術がお互いにフィードバックするわけである。こうした意味で、これまでの科学と技術を分離した考えから、科学技術という概念をはっきりさせてものごとを考えなければならない時代に変わってきている。その際に、これまでの価値中立的な判断に対して、金銭的な判断が優先される傾向が強くなり、この価値判断をきちんと行っていくことが必要不可欠である。科学、技術から科学技術へと時代は発展してきた。さらに、科学技術は文化の一部となるところまで進んでいく必要があろう。  (科学新聞 2月22日付け)<シンポジウム内容=http://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/chousei/news226.htm

 

4.科学技術・学術審議会

科学技術・学術審議会の学術分科会「学術研究における評価の在り方について」を報告

 すでに(昨年11月28日)、国の研究開発全般を通じた評価の基本的方針を示した「国の研究開発評価に関する大綱的指針」が決定されている。文部科学省関係の研究開発の中で、大学等の学術研究は極めて重要な位置を占めるとともに、評価にあたってはその特性への配慮が必要。このため、学術研究における評価の在り方について同分科会が審議し、その結果を取りまとめた。今後、この報告の内容も含めた文部科学省全体の評価指針を研究計画・評価分科会で検討し、年度内には作成する予定。報告の概要は次の通りである。

・学術研究における評価の基本理念

●自律的な環境の中で研究活動が行われることが重要であり、専門家集団における学問的意義についての評価を基本に据える。●優れた研究を積極的に評価するなど、評価を通じて研究活動を鼓舞・奨励し、その活性化を図るという積極的、発展的な観点を重視。

・評価の際の留意点

《評価の視点》●学問的意義についての評価が中心。分野等に応じて、社会・経済への貢献という観点から新技術の創出や特許等の取得状況なども視点の1つ。●長期的・文化的な観点に立った評価。●萌芽的研究の推進や、若手研究者の柔軟で多様な発想を育てる視点。●単に成果を事後的に評価するだけでなく、研究者の意欲、活力、発展可能性を適切に評価する視点。

《評価の方法》●ピア・レビューによる研究内容の質の面での評価が基本。客観的データも適宜活用。●人文・社会科学の研究については、個人の価値観が評価に反映される部分が大きい点に配慮が必要。

《教育との関係》●研究と教育の有機的関係への配慮が必要。

・研究課題の評価

《基盤的資金による研究》●研究者による日常的な論文発表や学会活動を通じた評価を活用しつつ、各大学等において行う。

《競争的資金による研究》●事前評価(審査)に重点を置いて一層の充実に努める。●審査員の構成バランスへの配慮、実施体制の強化、審査結果の開示の拡充に努める。

《大型研究プロジェクト》●研究者のアイデアを汲み上げつつ、科学技術・学術審議会に適切な組織を設けるなどして評価を実施。●当該分野以外の研究者や一般有識者等の参画を得る。

・研究面における大学等の機関評価

●自己点検・評価の取組みについて、外部の研究者や有識者を評価者に加えるなど充実を図る。●大学共同利用機関については、評議員会等による評価機能の活用に努める。●第三者評価のための機関である大学評価・学位授与機構による評価活動を推進。

・研究者の業績評価

●各大学等において実施し、組織運営に生かす。●研究者の創意を尊重し、優れた研究活動を推奨し、支援するという視点が重要。●教員の業績評価にあたっては、教育活動等への貢献も考慮し、一面的な評価にならないよう留意。●研究業績によって評価する「研究者」の範囲について適切に考慮。  (科学新聞 2月22日付け) <「学術研究における評価の在り方について」(文科省HP)=http://www.mext.go.jp/b_menu/kensaku/index.htm

 

5.学術関連雑誌の特集等

「学術の動向」(日本学術会議)

02年1月号 特集:新世紀の日本学術会議/学術(科学)研究の成果と社会/ 2月号 特集:創造性と日本の社会

「大学資料」(文教協会)

02年 1月(153) 大学におけるカリキュラム等の改革状況について/今後の大学教育の在り方に関する世論調査.他/ 02年2月(154) 公私立大学学部等の新設等について.他

「学術月報」(日本学術振興会)

02年1月号 特集:我が国の研究者養成の展望

「大学と学生」(文部科学省高等教育局学生課編)

01年12月(444) 特集:留学生受入れ制度100年記念/ 02年1月(445) 特集:新春教育随想

「理科教室」(科学教育研究協議会編)

02年1月号 特集:なぜ理科を学ぶのか/ 2月号 特集:天気の学習/ 3月号 特集:温度と熱の学習

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(本号は、主に2001年12月下旬〜2002年2月の情報を扱っています。)