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原水爆禁止2005年世界大会・科学者集会のまとめ

 原水爆禁止2005年世界大会・科学者集会は、「いま、核兵器の廃絶! 逆流を越えてさらに大きなうねりを」をメインテーマに、日本大学歯学部で開催されました。この集会は、原水爆禁止世界大会の関連行事として1987年以来毎年開催されているもので、今回で18回目となります。
 集会には日本各地の科学者に加え、国際司法裁判所の元副所長で判事、現在は国際反核法律家協会会長であるスリランカのクリストファー・ウィラマントリーさんなど海外からの参加者を含め、全体で20都府県から145名が参加しました。また、集会では海外からの特別報告を含め7つの報告にもとづき、全体でのべ21名が発言しました。
 「広島・長崎への原爆投下から60年目のアメリカの核戦略の方向」をテーマにした新原昭治(核問題研究者)報告は、@現在アメリカが保有する核兵器数はピーク時の3分の1以下、爆発威力の総計はピーク時の10分の1にまで減っているものの、それは核戦略を弱体化させることなしに軍事的合理性を貫いたアメリカ自身の対応の結果であり、いまなお爆発威力の総計は広島原爆13万発分以上もあり、人類と生存と世界の平和にとって大きな脅威であること、Aブッシュ政権の核戦略は、大量破壊兵器の拡散に対抗する、いわゆる「拡散対抗戦略」の採用という点でクリントン政権の核戦略を引き継いではいるものの、「ならず者国家」による大量破壊兵器の取得を阻止する手段として核兵器の使用を選択肢に加えるなど先制核攻撃戦略を当然の前提として採用し、こうした先制核攻撃戦略にそって政権中枢の態勢を強化していること、Bブッシュ政権の核戦略の最新の傾向は、(a)「核兵器の使用政策」という点では、第三世界の特定国への先制核攻撃戦略を強化しつつあること、(b)「核兵器の取得政策」という点では、地下貫通型核兵器や「小型」核兵器の開発など新型核兵器の開発に向けた取り組みを強化していること、(c)「核兵器の配備政策」という点では、核兵器の海外配備をこれまでにも増して重視しつつも、海外での反発や国際世論を恐れ、この問題をめぐる情報を厳しく管理し秘密扱いにしていること、C先制核攻撃戦略の危険性を告発し、核兵器廃絶の国際世論を格段と強めることこそが、先制核攻撃戦略に固執するブッシュ政権を決定的に孤立させる原動力であることを強調したものでした。

 特別報告「核兵器の違法性と科学者の責任」をテーマにしたクリストファー・ウィラマントリー報告は、科学者が社会の中でしめる役割は非常に大きいものであり、科学者の倫理規範をつくることの必要性と科学者が反核の立場で社会に影響力を行使することの重要性を訴えたものでした。また、核兵器の使用は、@将来の世代にまで被害を与えるという点で人権法に違反する、Aジョノサイドであり、人道にもとる犯罪である、B核の冬などをもたらし、環境保護の原則に違反する、CAとBの二カ国の戦争であったとしても、当事国以外の第三国を巻き込んだ多大な被害を与える、D残酷で不必要な苦痛を与える、E攻撃目標が軍人、市民を区別しない、などの点で明確に国際法に違反することを指摘しました。さらに、核兵器の使用が国際法に違反することを平和教育をつうじて政治指導者や若者に広めていくことが重要であることを強調しました。国際法が決して法律の専門家のものではなく、世界中の人びとのものであることを私たちに教えてくれた報告であったと思います。
 「女性が参画する『世界平和』構築の可能性―その歴史と今日の課題に寄せて―」をテーマにした米田佐代子(NPO平塚らいてうの会会長)報告は、報告者の専門である近現代女性史の立場から、いわゆる「女性の平和」構想を「差別のない平等」、「いのちの尊重」、「国家に代わる協同自治」の3点に整理し、女性の社会的地位の向上に貢献した平塚らいてうの生涯をもたどりながら、日本国憲法は「女性の平和」構想に有力な根拠を与えていることを問題提起したものでした。また、@女子差別撤廃条約採択の重要な意義を認めつつも、女性差別撤廃の課題においてさえも核保有国の国家政策が優先しているという指摘、A「男女平等」、「生存権」、「戦争放棄」、「非武装」といった「女性性」に満ちあふれているがゆえに「男性性」を誇示する改憲派は憲法を攻撃しており、それ故に改憲派のねらいは9条を中心としつつも「個人の尊重」を掲げた13条、「両性の本質的平等」を規定した24条などにも向けられているという指摘、B「あらゆる分野に女性が男性と平等に参加する」ことを求めた女子差別撤廃条約の精神は平和運動にこそ生かされるべきであるという指摘など、きわめて示唆に富んだものでした。
 「被爆60周年と原爆集団訴訟」をテーマにした沢田昭二(名古屋大学名誉教授)報告は、究極の暴力ともいえる核兵器使用の惨劇を体験した被爆者のその後の苦痛、被爆直後から12年ものあいだ原爆被害の隠蔽政策と被爆者の放置政策がアメリカの占領軍と日本政府によって行われたにもかかわらず、報復や憎悪を乗り越え、世界中のだれでも二度と再び同じ体験をさせてはならないと原水爆禁止運動のなかに「生き甲斐」を見出した被爆者の60年について、感動的に紹介したものでした。また、原爆投下後の60年は、激化する核軍拡競争に対抗してラッセル・アインシュタイン宣言、パグウォッシュ会議、ヒロシマ・ナガサキからのアピール署名、国際司法裁判所の勧告的意見など戦争反対、核兵器廃絶を求める国際世論が着実に力をつけた60でもあり、唯一の超大国アメリカのスーパーパワーを打ち負かすことができるのは、反核平和を求める国際世論のスーパーパワーであることを強調したものでした。さらに、原爆症認定を原爆集団訴訟の論争点、放射線影響研究の課題と科学者の責任についても、鋭く問題提起をしたものでした。
 「きのこ雲の下から明日へ―原爆小頭症の親子の会『きのこの会』の歩みと家族の生活史―」をテーマにした斉藤とも子(女優、社会福祉士)報告は、文字どおり、母親の胎内で被爆したために知的障害と発育障害をともなった原爆小頭症患者の親子の会である「きのこ会」の歩みと、いくつかの家族の生活史をたんねんに調査し明らかにしたものでした。「きのこ会」の活動の3本柱が、原爆症の認定を勝ち取ること、親が亡くなったあとの原爆小頭症患者の終身保障を実現させること、二度と同じ苦しみを繰り返さないために核兵器廃絶を求めていること、を私は初めて知りました。また、国が起こした戦争の被害に対し、責任を追及し、補償を要求する、「おめぐみではなく、責任をはたさせる」という「きのこ会」のHさんの姿に、深い感銘を受けました。
 以上の報告に加え、中央大学法学部学生の池内沙織さんが「核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議要請団によるニューヨーク大行動」について、財団法人政治経済研究所の北村浩さんが「核廃絶をめぐる地球市民社会の動向―世界社会フォーラムの経験から―」というテーマで、それぞれショート報告を行いました。

 総合討論では、@憲法9条の擁護と平和を構築する課題に関する仏教者の立場からの訴え、A東京都教育委員会による卒業式・入学式での「日の丸・君が代」の強制に対する不服従の闘いについて、B科学者の社会的責任の重みについて、C核兵器廃絶の課題を達成するうえで障害になっている「自衛のための核兵器使用論」を打ち破る理論構築の重要性について、D科学者が非核三原則の法制化を実現させるための道筋を提示する責務について、E環境化学の専門の立場から公害をなくす研究を実践してきた活動の中で作成した核兵器と環境汚染のパンフを参加者に提供するので読んでほしいという訴え、F核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議に対する要請行動の重要な意義について、G神奈川県における在日米軍基地の再編計画について、H沖縄県における在日米軍基地撤去の運動と平和教育の重要性について、I広島と長崎に原爆が投下された日にあわせ、毎月6日と9日に核兵器廃絶・被爆者援護連帯を世論に訴える、いわゆる「6・9行動」を埼玉県内で35年間継続してきた成果と展望について(文書発言)、などさまざまな問題についてそれぞれメインテーマを深める形で意見が表明されました。
 最後に、集会の成功のためにご尽力いただきました日本科学者会議東京支部、原水爆禁止東京都協議会をはじめとする東京都内の平和団体のみなさん、会場を提供してくださいました日本大学歯学部、支援スタッフのみなさん、私たちの集会に参加し貴重な報告をしてくださいました国際反核法律家協会会長のクリストファー・ウィラマントリーさん、報告者のみなさんに心から感謝いたします。

                   科学者集会実行委員会事務局長  野口 邦和