JSA

日本学術会議

 会長 黒川 清 殿

 

 

各国学術会議共同声明「気候変動に関する世界的対応」の

邦訳の訂正を求める申し入れ

 

 貴会議が2005年6月8日に発表した標記共同声明の正文 "Joint science academies' statement: Global response to climate change" に対する邦訳「気候変動に対する世界的対応に関する各国学術会議の共同声明(仮訳)」には、重大な誤りがあります。

 日本科学者会議は、人類の生存と平和的繁栄のために研究を行い社会へ働きかけることを目的に活動する科学者の団体として、この声明を支持する立場から、その内容がわが国の研究者、政府関係者そして国民に正しく伝えられるように、以下に指摘する邦訳の誤りを貴会議が訂正することを求めます。

 問題の点は、2005年7月に開催されるG8サミットに集まる首脳を含む世界の指導者たちへの訴えを列挙した部分の第2項にあります。この項の正文は、"Launch an international study to explore scientificallyinformed targets for atmospheric greenhouse gas concentrations, and their associated emissions scenarios, that will enable nations to avoid impacts deemed unacceptable." であり、これに対する貴会議の邦訳は「大気中の温室効果ガスの濃度およびそれらの排出シナリオに関して、世界の国々にとって無理のない程度の、科学的に裏付けされた削減目標を設定するための国際的な研究に着手する。」となっています。しかし、"that will enable nations to avoid impacts deemed unacceptable" を「世界の国々にとって無理のない程度の」と訳すことは誤りであり、この節は、たとえば「世界の国々が受け入れがたい影響を回避できるような」というように訳されなければなりません。このことは、正文中の他の4カ所に出てくる "impacts" という単語が、すべて気候変動の影響という意味で使われていること、そもそもこの声明が、深刻な(すなわち受け入れがたい)影響をもたらすことが予想される気候変動への世界的対応を求めるものであることからも明らかです。

 声明のこの項は、世界の指導者への訴えとしてだけでなく、世界の科学者に対して国際的な研究を行うことを呼びかけるという意味を持っています。この重要な呼びかけの意味がわが国の研究者に正しく伝わるように、日本科学者会議は、以上に指摘した邦訳の誤りを貴会議がすみやかに訂正することを求めます。

 

                     2005年9月4日

                                         日本科学者会議第41期第3回常任幹事会