JSA

☆日本科学者会議は7月27日、以下の声明を発表しました。
 同日、文部科学大臣、東京都知事、横浜市長および日本学術会議会長宛に送付しました。

 

公立大学のあり方を問う(声明)

 地方自治体の財政難を口実に、地方独立行政法人法の成立などを背景として、東京都、横浜市、大阪府など各地の公立大学で「改組」、「改革」、「法人化」が進められている。しかし、学問・研究・教育の発展を願う立場から、日本国憲法と教育基本法に照らして、そのあり方と経過は、下記のような重大な問題を含んでいる。東京都や横浜市が現在進めているような拙速かつ違法な「改革」を文科省設置審が認めるようなことがあれば、その見識が問われると言わざるを得ない。

 これらの大学「改革」の過程において共通に見られるのは、行政による大学への著しい介入である。特に、東京都と横浜市においては、行政が設置者権限を盾に現大学の意思を無視し、学部や学科の廃止を主導している。東京都は、大学側の間で協議がほぼまとまっていた改革案「4大学統合案」を突然破棄し、「4大学廃止・新大学新設(その後の「首都大学東京」)」案を一方的に押付けてきた。横浜市においては横浜市長の諮問機関である「市立大学の今後のあり方懇談会」の答申を利用し、「廃止」か「改革」かの圧力のもとで、学長、行政が一体となった「改革」が進められてきた。このように大学構成員の意思を踏みにじり、恫喝とも云える行政の介入が進められてきた。このことは、憲法23条の学問の自由の保障、教育基本法第10条の教育行政のあり方に著しく反し、これまで長年にわたって築いてきた大学の教育・研究の実績、学問体系の破壊に繋がりかねないものである。

 横浜市大に関する定款は、経営権を持つ理事長に強い権限を与えており、すでに「改革案」で基礎学科の廃止などが明らかにされたように学問・研究の自由を侵し、教育の基盤を喪失させる危険性を一層孕んだ構造となっている。また、同定款には、教育研究審議会に教員人事権に関する明確な規定がなく、行政の恣意的な介入の余地すら残している。

 公立の大学が地域住民に貢献することは大いに推奨されるべきことであるが、学問の特性から、大学の地域貢献は学問・研究の普遍的な成果を基礎にしてなされるべきである。東京都の「首都大学東京」での人文学部の実質的廃止や、横浜市の市立大学における理学部数理科学科の廃止は、基礎学問を軽視した実学優先と経営主義に偏重した改革案となっている。日本数学会理事長の森田康夫氏は、全国でも有数の業績を挙げ、様々な分野に有能な卒業生を送り出してきた横浜市大の数理科学科を賞賛し、廃止決定を批判している。

 公立大学を設置する自治体には、地方自治の本旨に照らして地方公共団体が住民の福祉に責任を持つ事の一環として、学問・研究と教育に責任がある事は言うまでもない。公的支援によって教職員や設備を充実させ、学生の負担を極力減らすことにより、日本国憲法と教育基本法にうたわれている国民の教育を受ける権利を保障し、普遍的な学問を重視し、真に公的な「学問の中心」としての役割を公立大学が果たせるよう地方自治体は努めるべきである。また、国には私立大学と同様に公立大学に対しても、公的教育研究機関としての条件整備のための財政的支援を確立する責任があることを、ここであらためて強調しておきたい。


2004年7月27日
日 本 科 学 者 会 議