JSA

☆以下の見解は、日本科学者会議が2002年3月20日に発表、内閣総理大臣、文部科学大臣、日本学術会議会長、「連絡調整委員会」主査、関係団体、および報道関係各社宛に郵送したものです。

「新しい『国立大学法人』像について(最終報告)」に対する見解
2002年3月20日
日 本 科 学 者 会 議


 文部科学省の「国立大学等の独立行政法人化に関する調査検討会議」(以下、調査検討会議)は昨年9月の「新しい『国立大学法人』像について(中間報告)」に続き、本年3月6日、第8回連絡調整委員会を開いて「最終報告」を決定した。
 「中間報告」について本会では、6月に発表された「大学(国立大学)の構造改革の方針」(いわゆる「遠山プラン」)とあわせて、"「新しい『国立大学法人』像について(中間報告)」に対する見解"を10月15日に発表した。本会の「見解」では、「知の世紀」といわれる21世紀に、大学がその創造・継承の拠点として社会に対する固有の責任を果たすには、学問の自由、大学の自治、学生の教育を受ける権利の保障、および公的財政支援の拡充がますます重要であり、それはユネスコの最近の高等教育に関する勧告や宣言にみられるように、国際的趨勢であることを指摘し、以下の問題点を明らかにした。
1.「遠山プラン」および「中間報告」は、日本の高等教育を国家戦略・企業利益優先の研究・人材育成に直接奉仕させる機関とすることを露骨に意図している。
2.国立大学の統合・再編は、「一県一大学の原則」を放棄し、教育機会の提供、地域の文化や産業への貢献などを大きく後退させる。
3.「トップ30構想」は、私立大学も含め、大学を選別・淘汰の対象にして全体的な再編を図ろうとするものである。
4.提案されている運営組織は、学長によるトップダウンの運営のための仕組みであり、大学にはなじまないものである。また、評価の仕組みは大学の自主的・自立的運営を侵すものである。
5.国立大学の学費が大幅に値上がりする可能性があり、公私立大学にも波及して、教育の機会均等や国民の教育を受ける権利の侵害という重大な問題を生じる。

 「最終報告」においてもこれらの問題点は解決されないばかりか、さらに教職員の身分を「非公務員型とする」としたことは重大である。周知のように国立大学の教職員は国家公務員および教育公務員としての身分保障を受けている。教育公務員特例法における身分保障規定は、大学における学問・思想の自由を保障する上で基軸的で憲法規定の具体化としての意味を持つ。この基本的な法制度が私学をも含む大学教員の地位を規定してきた。したがって、国立大学の教員が適用対象から外れることの影響はきわめて大きく、大学の教職員のみならずわが国の教育・研究労働者全体にとっての大きな問題である。
また、同法は長年にわたる日本と世界の大学自治のための運動によって形成された基本を法制化したものである。それを解除することは、国公私学を通じての大学自治の基本骨格の維持を困難に陥れるものである。さらに、大学に働く職員の意見を聴取することなく、非公務員化を進めることは、労働権の侵害にも繋がるものである。
 今回、調査検討会議が「最終報告」で国立大学の教職員を「非公務員型とする」とした狙いは、財界の要請に従属し「構造改革」の一環として、民間企業との研究協力や大学教員の兼職・兼業を容易にすることと同時に、「競争的環境」における雇用の流動化、大学の再編・淘汰を進めやすくすることにある。すなわち、本会が「見解」において指摘した上述の1、2および3の問題点をいっそう露骨に推進しようとするものであり、国民の教育権、学問の自由を侵害し、わが国の大学における教育・研究の健全な発展を阻害するだけでなく、大学への国家管理と教育・研究の国家動員を図ろうとするものである。

 日本科学者会議は、国際的趨勢に照らしても異常なこれらの誤った政策に反対し、国民各層と共同して学問の自由、大学の自治を断固として守り、大学を知の創造と継承の拠点として発展させるために活動していくことを表明するものである。