JSA

2001年10月8日
日本科学者会議大阪支部常任幹事会

アフガニスタンに対する報復戦争の停止を求める声明 

 10月8日(日本時間)、アメリカ・イギリス軍はアフガニスタン国土に対する巡航ミサイルと空爆による攻撃を開始した。ブッシュ大統領は、タリバーンとアルカイダの拠点や軍事標的に限定されると強弁しているが、大規模な攻撃が多数の一般市民を巻き添えにし、悲惨な犠牲を強いることは明白であり、今後、戦闘の拡大とともに、さらに被害が甚大なものになることが予想される。さらにアメリカ政府は、必要ならあらゆる兵器を動員することを広言し、核兵器の使用さえ排除していない。 これに対して小泉首相はいち早く支持を表明したばかりか、自衛隊を派遣して積極的に参戦することを表明し、自衛隊の本格的海外派兵の正当化をねらう「テロ対策特別措置法」を今国会で成立させようとしている。さらに首相は国会答弁で、“多少の犠牲はある程度は覚悟しなければならない”とまで断言している。
 私たちは、こうした無謀な行為に強く抗議し、戦闘行為の即時停止を強く求めるものである。
 アフガニスタンではすでに20年以上にわたる内戦と外国の干渉で民衆は疲弊し、貧困と飢餓に苦しめられきた。同国では、5歳以下の乳幼児死亡率が1000人中257人(1998年)に達するなど、苦難は子どもと女性にもっとも重くのしかかっている。すでに400万人を越えるといわれる難民は、もはや生きる望みさえ奪われつつあることを直視しなければならない。ここで大国がいかなる口実を設けても、国家による暴虐を正当化することはできない。そればかりか、暴力は新たな暴力を呼び起こすだろう。国際社会は、すでに1970年の国連総会において、武力行使をともなう復仇行為を明確に禁止する宣言が採択されていることを想起すべきである。
 もちろん、9月11日アメリカ国内で発生した同時多発テロは、市民をも標的にした卑劣な犯罪行為であり、私たちも絶対に許すことはできない。私たちはかかる蛮行に強く抗議するとともに、犠牲となられた方々に心からのお見舞いと哀悼の意を表するものである。しかしながら、報復戦争はけっしてテロ問題の解決策にはならない。たとえ犯人とされる人物や組織をせん滅したとしても、アジア、アフリカ地域でますます悪化する貧困、環境劣化、食糧難、不公正、抑圧などの危機が存在するかぎり、第二、第三のテロ組織の温床は残されるのである。しかも世界で不安定が拡大すれば、世界経済は現在以上に混迷し、ただでさえ困窮を強いられている人々の生活を地球規模で破壊する危険性が高い。これに対して今、アメリカ国内を含む世界各地で、無謀な報復戦争とその準備を止めよ、という良心の声が広がりつつある。この世論と運動をさらに大きくしなければならない。
 私たちは、この間の国内外のマスメディアの対応に深い憂慮の念を表明する。アメリカ政府をはじめ同盟諸国は、大規模な報復戦争の準備を固める中で、憎悪と対立をあおる情報操作を強化している疑いは濃厚である。国民は、テレビや新聞を通じてはんらんする情報の中から、何が真実で、何が虚偽なのか、しっかり見すえておくことが求められている。
 いま世界が一致してやるべきことは、テロの容疑者と支援者を裁き、厳正に処罰するため、国際社会が事件の真相究明など努力をつくすことである。またテロ根絶のためにも、これら地域の民主主義の確立と民生向上は不可欠である。日本が真に貢献できるとするなら、まさに経済、科学技術、教育、民主的諸制度などの分野での蓄積を活かすことでり、軍事介入の片棒を担ぐことでは決してない。アメリカ政府は今回の行動に400億ドルの補正予算を計上し、日本もまた「応分」の軍事費負担を求められるだろうが、大量の悲惨な死を招く行為に国民の血税をつぎ込むべきではない。これらの資金を生存の困難に直面している人々の救済に当ててこそ、新たなるテロの防止につながるだろう。
 今回の事件に直面して、私たちは改めて日本国憲法の輝かしい原則を称揚しなければならない。小泉首相はこともあろうに前文を引用して、わが国は“国際社会において名誉ある地位を占めたい”と発言したが、憲法を正しく読むなら、同氏の言辞がいかに欺まんに満ちたものであるか明らかである。すなわち前文には、“われらは平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において名誉ある地位を占めたいと思ふ”と明記されているのであって、第9条で禁止されている「武力による威嚇又は武力の行使」によっては名誉は得られない。前文はさらに“いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない”ことも宣言している。最近の政府の言動は、日本国憲法の原則に対する許し難いじゅうりんである。
 戦争こそ人間性と環境の最悪の破壊である。私たちは平和を願い、永続可能な社会を目指して発言、行動してきた大阪の科学者の名において、世界の人々と各国政府に強く訴えるものである。