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国立大学の独立行政法人化に対する第二次見解

                                        2000年5月19日
                                        日 本 科 学 者 会 議

 日本科学者会議は、1999年8月10日、「国立大学の独立行政法人化に対する見解」を公表したが、最近の国立大学をめぐる情勢の急展開に即し、ここに第二次見解を発表する。
 文部省は、昨年9月20日、2000年度のできるだけ早い時期に、独立行政法人通則法の国立大学に関する特例措置について結論を得る方針のもとに、各大学等に検討を求めてきた(「国立大学の独立行政法人化の検討の方向」)。しかし、大学関係者・団体や各大学の根強い批判や反対に直面し、具体化することが困難な事態にたちいたった。その打開のため、自民党の教育改革実施本部高等教育研究グループは「提言 これからの国立大学の在り方について」(以下「提言」)を策定(3月23日)し、自民党の文教部会・文教制度調査会合同会議は、行政改革推進本部と協議・了承のうえで、「提言」を一部修正して決定(5月9日)した。新聞報道によれば、文部省は自民党の決定を受けて、5月26日に国立大学長等会議を招集し、国立大学の「法人化の具体的制度づくりに着手する」(「日本経済新聞」2000年5月17日付)ことを表明する予定になっている。
 決定された「提言」は、「特例法」や「特例措置」に否定的な行政改革推進本部の意向を汲んで、「独立行政法人制度の下で、通則法の基本的な枠組みを踏まえ」、「大学の特性を踏まえた措置」を講じる「調整法(又は特例法)」のかたちを採用するとして、その期限についても、「平成13年度中に具体的な法人像を整理し、できるだけ早期に『国立大学法人』に移行させるべきである」と述べている。
 そこでは、国公私立大学を含めて高等教育・学術研究への公的投資の拡充、地方国立大学の維持強化、基礎研究への配慮など、一見大学人の要求を取り入れたかたちになってはいるが、「通則法の基本的な枠組み」は不変であり、「大学の特性を踏まえた措置」も独立行政法人化の前提とされる「1.今後の高等教育政策の在り方」「2.国立大学の運営の見直し」「3.国立大学の組織再編の見直し」方針に規定されている。
 「高等教育政策の在り方」にかんしては、大学の個性化・多様化などの「3つの方向」と諸規制の緩和などの「3つの方針」が提起されているが、それらは、従来の大学格差政策を基本とした競争力強化の路線にほかならない。「国立大学の運営の見直し」で掲げる、護送船団方式からの脱却、学長選考の見直し、任期制の積極的な導入などの7点や「国立大学の組織再編の見直し」で指摘されている諸点も同様である。要するに、「提言」のめざす国立大学の独立行政法人化は、たとえ名称を「国立大学法人」としたとしても、通則法の枠組みと異なる別個の法人化ではなく、その枠組みを踏まえた自民党の高等教育政策の戦略に沿ったものである。
 とりわけ、決定された「提言」は、文部省の「検討の方向」や自民党の高等教育研究グループが策定した「提言」と比べても、大幅に後退したものとなっていることは看過されるべきではない。
 第1に、「主として国費で運営される国立大学については、国が、その運営や組織編成の在り方に対して、相当の関わりを持つことは当然」と述べて、政府・文部省による大学への官僚統制を謳っていることである。
 第2に、学長選考については、「社会との連携の下に適任者を選ぶとの考え方に立って」、「学外の関係者」「『タックス・ペイヤー』たる者」を選考に加えることを提起していることである。
 第3に、「専門的な判断」(「検討の方向」)をおこなう「大学評価・学位授与機構」に「大学関係者のみならず幅広い関係者」を「参画」させようとしていることも、大きな問題点である。
 そもそも、今年度から制度化された「大学評価・学位授与機構」は、独立行政法人化の主眼である大学の外部評価の先取り的機関である。それは、政府から独立した専門家による第三者評価機関ではなく、文部大臣所管の国の機関であり、評価結果が資源(予算)配分とリンクする危険性を孕んでいるが、「大学評価・学位授与機構」に「大学関係者のみならず幅広い関係者」を「参画」させることは、財界の経済戦略やときの政府の国策に追随する学術・科学技術政策の遂行を評価基準にした、大学の格付け・格差拡大、大学統制の方向をいっそう強化することにつながる。
 もしも、このように、決定された「提言」の線に沿って国立大学の独立行政法人化がすすめられるならば、学問・研究の自由、それを保障する大学の自治が侵され、自治組織としての大学の在り方が根本から覆されてしまうことにならざるをえないであろう。
 
 2001年から施行される中央省庁再編――政策評価の強化、人事の能力主義の徹底、独立行政法人化、内閣機能の強化、文部科学省の設置、内閣直属の経済財政諮問会議や総合科学技術会議等――の体制のもとで、国策としての学術・科学技術・高等教育政策が大学に集中するならば、大学はその下請機関となり、真に国民や世界、未来に開かれた社会的役割・責任を果たすことはますます困難となる。 
 総じて、政府の大学政策は、「科学技術創造立国」「大競争時代の到来」を口実に産業界への大学の従属化、「大学の企業化」を推進し、大学を国民から遠ざけ、競争・管理を徹底し、その共同・自治を破壊するものであり、大学本来の可能性を閉ざすものといわざるをえない。
 国立大学は、憲法・教育基本法の精神に基づき、教育の機会均等、各分野の優れた人々の育成、基礎的・長期的研究や学術の均衡ある発展などを通して社会に大きく貢献している。しかし、反面、施設設備の劣化、許認可、人事、財政などによる政府の大学統制や財政支出の抑制により、国立大学の機能が低下し、その真価が十分に発揮されていないことも否定できない。これらの問題を着実に解決する大学改革こそ求められている。
 「知の世紀」といわれる21世紀に向け、人類の普遍的価値である「学問の自由」や「教育への権利」の実現をめざす大学の創造的改革がますます重要になっている。それを通して真理を探究・継承し、人類的課題の解決に寄与し、人々の利益や福祉に奉仕することは、大学固有の社会的責任である。そのために、今日の日本では大学の自治と共同、それを支える公的財政の飛躍的増加がとりわけ重要であり、それは高等教育の国際的合意でもある。ユネスコの「高等教育の教育職員の地位に関する勧告」(1997年)や「21世紀に向けての高等教育世界宣言−展望と行動−」(1998年)でも同様の指摘がなされており、それは高等教育の国際的合意といえよう。
 われわれは、このような観点・展望のもとに、国立大学の独立行政法人化に強く反対することをあらためて表明する。

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