大会宜言

 日本科学者会議第30回定期大会は,1995年5月27日・28日の両日に東京農工大学(東京)において開催された.本年は日本科学者会議の創立30周年と第2次世界大戦終結50年目という二重の意味で節目の年である.

 「核拡散防止条約(NPT)」の「無条件・無期限延長」を図ったアメリカなどの核保有国とそれに加担する日本政府は,核兵器の廃絶を願う世界の多くの声を無視した.また国内では,かつての侵略戦争への反省を忌避したり,憲法の改悪を狙う動きも見逃せない.このように戦後50年目は,われわれ平和と民主主義を求めるものにとって重大な局面である.

 今年初頭に起きた「阪神大震災」は,科学・技術の難行的発展と経済効率を優先した都市集中型の国土開発の帰結であり,あらためて人文・社会科学を含めた科学技術のバランスのとれた発展が必要であることが示された.一方,いまいわれる「若者の科学離れ」は,非科学的思考を醸成したり,社会の変化に関する法則性の存在そのものを否定する社会の風潮を反映したものであり,また「地下鉄サリン事件」は科学の反社会的利用そのものである.われわれは,科学の総合的民主的発展をめざすと共に,何事にも科学的な判断と社会との関わりを認識し得る青年を育てることが,きわめて大切な情勢にあることを確認する.

 世界平和をめぐる動きや地球環境問題などに直面するなかで,学問の学際的発展が求められる一方,文部省による教養教育の軽視や特定分野の技術教育の偏重などが進行しており,また国会では「科学技術基本法案」による人文・社会科学の疎外が企図されつつある.このような学問と研究・教育をとりまく環境の大きな矛盾のなかで,日本科学者会議は1995年12月に創立30周年を迎える.この節目にあたって,日本科学者会議はその社会的役割を果たすために,これまで取り組んできた3M(見える,魅力ある,皆でやる)活動を一層すすめるなかで多くの会員を迎え入れ,時代の激動に対応する活動の発展を期さねばならない.

 いま戦後50年を振り返ると,社会正義が戦後最大の危機に直面しているといって過言ではない.科学者は,日常的に真実と対峙しており,真実から目をそらすことが許されない.そこに科学者が正義に対してより敏感になり得る条件がある.われわれは,今日の混迷を深めている日本社会に対して,科学者の良心と先見性をもって,国民とともに正義感あふれる社会をつくる運動の発展をめざすことを,今大会の名において宣言する.

                     1995年5月28日

                     日本科学者会議第30回定期大会