「科学技術基本法案」に関する検討と討論を呼びかけるアピール

 今国会に,自民党・社会党などによる議員立法提案で,「科学技術基本法案」が提出されようとしている.すでに「科学新聞」(1995年4月28日付け)等が報道したように,この法案は「科学技術の振興」に関する施策を総合的かつ計画的に推進する目的を掲げ,独白の先端科学技術に基づく新産業の創出を意図している.

 法案は,1968年に政府が国会に提出し,廃案になった 「科学技術基本法案」の骨格を踏襲し,基本的にはプロジェクト型研究開発に対する重点投資の方向を一層明らかにした.しかも過去の法案とは異なり,民間の研究開発を促進するための積極的な助成や,「国際貢献論」に立脚した国際交流を国に義務づけている.また,法案は人文科学を除外するとし,また社会科学についてはまったく言及がなされていない.さらに,法案は「基本法」を名乗っているにもかかわらず,最低限必要な平和目的,研究の自由・公開,研究運営の民主性,平等互恵の国際交流といった科学・技術の基本原則を定めず,しかも科学技術会議を重視する一方で日本学術会議や学会等の研究者・技術者の意見を反映させるものとはなっていない.したがって,この法案のままでは,重点投資対象外の研究分野の研究体制の貧困化,日本における科学と技術の歪みの拡大,そして国家・地方財政の危機の進行が懸念されよう.

 科学・技術の振興については,すでに学術会議が1967年と1976年に「科学研究基本法(仮称)の制定」を勧告した.日本科学者会議も1993年に「科学・技術政策に関する提言(第2次)」において,科学・技術の民主的発展に向けた体制整偏の基本を定める「科学研究基本法(仮称)」を提唱した.これらは,科学研究の白主的で健全な発展なしには科学・技術の振興は不可能であるとの認識を踏まえ,科学技術振興法を単独で先行的に制定することに疑義を述べ,研究者の自主性の保障,成果の公開,研究条件の整備,人文・社会・自然科学の調和的発展,日本学術会議や学会の意見尊重などの根本原則を定める基本法をまずもって制定することを訴えたもので

ある.

 もし今日,科学技術振興に関する法律を制定するならば,同時にこうした科学研究基本法やアセスメント法なども併せて制定する必要があろう.そのためには,今回のような法案を性急に進めるのではなく,広く科学者・技術者の間で検討する機会を保障し,またその意見を踏まえなければならない.本大会は,日本の科学と技術の白主的・民主的発展を求める立場から,「科学技術基本法案」について迅速かつ活発な検討と肘論を行うと共に,21世紀を展望する科学と技術のあるべき姿を探究するよう呼びかける.

                  1995年5月28日

                  日本科学者会議第30回定期大会