水俣病に対する不当判決に強く抗議する(声明)

                          1992年2月19日

                           日本科学者会議

 1992年2月7日におけるチッソ水俣病罹患者の損害賠償請求事件に対する東京地方裁判所の判決はきわめて不当なものである.すなわちそれは

1.歴代の環境庁長官が行政上の責任ありと認め,現に熊本県もその解決のための責任を認めて努力しており,さらに,この問題について熊本地裁は国と熊本県の法的責任を認めた判決を行っているにもかかわらず,今回の判決は国および熊本県の国家賠償法上の責任を否認している.

2.去る2月5日の「福岡高裁所見」は,「症状要件」を幅広く設定し.原告の要求金額を下回ってはいるが,一時金を800万円とするなど早期解決への足がかりとなるものであった.しかし、今回の判決は,原告罹患者のうち22名については.相当の可能性の証明がないとしてその要求をしりぞけているばかりか,裁判所が認める42名の罹患者についても一人当たりの損害賠償額を請求額1,980万円に対し,400万円しか認めていない.

3.チッソ子会社はその資本,人事,取引関係においてまったくチッソと一体でありながら,これの責任を認めていない.

 判決は,戦後最大の公害である水俣病についての科学者・研究者の知見を無視し,さらに水俣病罹患者の数十年にわたる精神的,肉体的さらには経済的苦痛を無視したものである.われわれは,この判決に強く抗議するとともに.原告罹患者がこの不当な判決に屈することなく.多くの国民の支持のもとで,いっそう前進されることを願っている.

 日本科学者会議は,今後も20世紀最大の負の遺産といわれる水俣病のあらゆる面からの真の解決のために力を尽くすとともに.水俣病をふくめ,現在きわめて重要な課題となってきている地球全体をおおう公害,環境破壊防止のために最大の努力を払うことを誓うものである.